人体の構造と機能を知ることは、医学全体の基礎であり、何よりも大切でことである。これらの知識無くして、病態を理解し、正しい治療をすることはできない。基礎医学では、人体の構造と機能を知るために、肉眼解剖学と生理学を学習するが、この2つの橋渡しをするのが、組織学である。肉眼解剖学だけを学習したのでは、生理学を理解することは出来ない。肉眼解剖学で習った諸器官の知識の上に、組織学的な知識をプラスすることによって、生理学の諸事項を理解することが出来るようになる。従って、人体の構造と機能を理解する上での要が、組織学である。本科目では、講義と実習を並行して行い、人体の微細構造の特徴を観察し、正常な諸構造の基礎を習得する。組織学のような「形」のあるものを理解する学習過程では、手を動かして対象をスケッチすることが大切である。組織学実習の目的は、スケッチを通じて組織学を「体得」することである。本科目は、臨床医学を学ぶための基礎知識を獲得すると共に、講義・実習をつうじて「科学的に観察でき、科学的に思考でき、科学的に表現できる」能力を身につけることを目的とする。目的達成には、講義に出席し、講義内容を充分に理解し、真摯な態度で実習に臨むことが極めて重要となる。
我々の日常生活を考えながら、感覚と運動に基づいた中枢神経系の簡単な構造と機能をまず理解する。次に、その基本的な機能を常に意識しながら、脳や脊髄の構造の名称を覚える。その際、各部分の切断面(横断面や縦断面)で見える構造(CT及びMRI像を含む)と、立体的な構造との関係を十分に把握する。最後に、各部分の機能的な結びつきによる神経ネットワーク(神経路)を理解する。つまり、各部分の構造を説明できると共に、ある機能を果たすときに、各部の構造がどの神経ネットワークに属して、どのように働いているのかを理解することが目標である。また、神経解剖学を中心とした神経科学の最新のトピックに触れ、基礎医学のすばらしさを知るとともに、臨床医学とどのように結びついているのかを知ることも目標の一つである。
神経解剖学特別講義
2011年6月13日(月)宮田 卓樹 先生
(名古屋大学大学院医学系研究科細胞生物学分野・教授)
「臨床医的(?)神経発生研究:細胞のふるまいに注目して」
2011年7月12日(火)塩田 清二 先生
(昭和大学医学部第一解剖学・教授)
「神経細胞死防御と神経再生について」
2012年5月21日(月)山崎 麻美 先生
(高槻病院 副院長 小児脳神経センター 小児脳神経外科部長)
「子供の脳を守る」
2012年7月17日(火)塩田 清二 先生
(昭和大学医学部第一解剖学・教授)
「脳による摂食・エネルギー代謝調節機構
ー神経ペプチドによる創薬を目指してー」
2013年5月27日(月)上田 秀一 先生
(獨協医科大学解剖学(組織)教室・教授)
「攻撃性脳構造へのモノアミンニューロンの関与」
2013年7月16日(火)望月 秀樹 先生
(大阪大学医学部神経内科学・教授)
「医者になるのに神経解剖学は必要か?」
石 龍徳、 柏木 太一、篠原 広志、権田裕子:海馬の神経幹細胞の研究
海馬歯状回には、胎生期~成体期まで神経新生を続ける特殊な神経幹細胞が存在する。本実験では、胎生期に焦点を当てて、この神経幹細胞が海馬歯状回の顆粒細胞層を形成する過程を解析する。
大山 恭司:ニワトリ胚を用いた視床下部構造の組織発生〜脳損傷・再生医学との接点を探る
自律神経系の中枢である視床下部の形成過程を組織学的に解析する。さらに、発生学的視点から脳組織の損傷・再生について考察する。本課題全体を通じて、医学・自然科学を行う上で必須な論理的思考法を学ぶことを目的とする。
北澤 宏理:脳幹網様体の細胞活動を修飾する神経回路の探索
脳幹網様体の痛覚感受性細胞は、他の脳部位(大脳皮質や神経核)から様々な投射を受けている。それら投射元の脳部位のうち幾つかを選び、そこの細胞活動を活性化(電気刺激)ないし不活性化(局所的な薬物投与)をすることにより、投射先の脳幹網様体細胞への影響について観察する。